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pianist & writer 中山智広


Jazz Japan Mar.2015 vol.55 「チャーリー・パーカーの技法」を読む(文:中山智広) に書いた「着地原理」について
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2015年2月23日 記す


以下 月刊「ジャズジャパン」2015年3月号 vol.55 p.87 「チャーリー・パーカーの技法を読む 中山智広」  から

4:「スケール」からの離脱

・・・自分の周辺にも「アヴェイラブル・ノート・スケール」で挫折した人が多いので、この本とは離れるが、独自に調査・発見したことを記しておこう。標本サイズ、偏り等の詳細は省くが、ビ・バップからハードバップ位までの、中以上のテンポの「4ビート」で、アドリブフレーズは統計的に、
@
80%程度八分音符で構成されていた。
Aある音から次の音へ行く場合、音階の隣の音へ行く、半音隣の音へ行く、
3度隣の音へ行く、が80%程度であった(フレーズの構成要素は音階の断片、分散和音の断片が多い)。
B一つのコードが支配する領域でのフレーズの最後の音は、コードトーンであることが非常に多かった。

このBはとても重要で、つまりフレーズの最後の音がコードトーンだと、そこまでにどの音を経由しても、そのフレーズ全体がコードに合って聞こえる。これが恐らく「スケール」理論で言われていない。「着地原理」とでも呼びたいが、これは和声、音響学よりも心理学的現象で、ダニエル・カーネマンの「ピーク・エンドの法則」の一種だと思う。数ある方法の一つだろうが、「スケール」から離れると、見えるものが多々あると思う。

(三森編集長tweet 2015年2月12日

 月刊ジャズ・ジャパン2015年3月号の「『チャーリー・パーカーの技法』を読む」という記事は、私がこの本の著者濱瀬元彦氏にインタビューして、「読み解き」として書いたものです(「ただし記事中にも書いたように、私はこの「技法」を一つの可能な分析法として理解しましたが、そこまででした)。この中で、私は「4:スケールからの離脱」という項目を立てて、上のように書きました。この部分は濱瀬氏の「チャーリー・パーカーの技法」とは全く関係ない、私のオリジナルな発見です。ただし「アヴェイラブルノート・スケール」という意味不明な理論(?)をやめよう、という発想は共通します。私は「アドリブにはスケールを使う」という言いかたには、「あるコードに対して、適用できるスケールを(テキトーに)上がったり下りたりすれば、コードに合ったアドリブが出来る」という、あまり実りのない事態に結びつく危険性があると思っていました。重要なBの発見については、現に自分が長年にわたり実行している方法でもあり、2008年には「帰納的」方法による大方の形を作って、「ミンガス」でジャズ理論講座をやったことがあります。よく考えると、自分ではジャズを演奏するようになって数年後、1980年代の半ばには、無意識にこの原理を理解し、方法を体得、実践していたようです。最近になって1999年の心理学上の実験、発見を知り、この現象の理由についてもわかりました。これは今までの、いわゆる「ジャズ理論」では全く言われていないことで、今回「ジャズ・ジャパン」で初めて(中枢となる)一部を発表できたことは、幸運と思っています(近い将来、この研究の全てを論文化して発表する予定です)。

 上記の@について、直感的にわかると思います。しかしもちろんミュージシャン、スタイルによります。コピー譜の音符を数えてデータとしましたが、具体的なミュージシャンについては、次ページの「分析方法」参照です。「個性的」と感じられるプレイヤーは「八分音符率」が比較的低く、(50年代の)マイルスのように、四分音符のような、八分より長い音符が多かったりします。また、分析対象にしていませんが、50年代のコルトレーンのように、十六分音符の率が高いこともあります。二拍三連はビル・エヴァンスの特徴です。当然テンポにも左右されます。遅くなれば細かい音符が増えます。速くなると、コルトレーンも「ジャイアント・ステップス」のように八分音符だらけになります。さらに、調査したサンプルにはトロンボーンは含まれておらず、恐らくトロンボーンの場合は細かい音符を演奏するのに、相当高い演奏技術を要することから考えて、八分音符はもっと少ないと思われます。

 Aについて、コピー譜の音符一つ一つについて、次の音が何であるかを確認しました。例えばあるフレーズの音で、Cがあった時、その次の音はDか、D♭か、Bか、B♭か、Eか、はたまたオクターブ上のCか、といった事です。補足すると、「音階の隣の音へ行く」の「音階」は、「長音階」「短音階」と、「オルタード・テンションを含む、セブンスコードに使われる音階=、オルタード、コンビネーション・オフ・ディミニッシュド、リディアン・セブンス等」です。「隣」は上へと下への両方です。「半音階」の隣も同様で、上下両方です。3度隣も同じく上下両方です。またこの場合「長3度」「短3度」の2つがあります。そしてこれらのことから、3度より大きな跳躍は、案外少ないことが判ります。もし「個性的」になりたいならば、3度よりも大きな跳躍を含むフレーズを多用することかもしれません(そのような例はあまり思い当たらないのですが、セロニアス・モンクがややそれに近いかもしれません。分析したことはありません)。

 最も大切かつ、実際に役立つと思われるのは、上記のBです。長年、「ジャズ理論」、「アドリブの方法論」等を巡る最大の問題は、「どうやったらコードに合うフレーズ(メロディ)が作れるのか?」、あるいは「どのようなフレーズ(メロディ)がコードに合って聞こえるのか?」という一番当たり前の、最も答えが知りたい疑問に対し、明確な答えがどこにも無いことだと思います。これは本当に不思議なことですが、正直なところ、この答えさえわかれば、後は編曲法にページを割いているような「ジャズ理論」は、アドリブの方法としては必要ないかもしれません。また、この答えが無いために、ジャズ(ピアノ)を教室等で習ったものの、結局挫折したという人が多いと思います。現在「ジャズピアノ レッスン」でGoogle検索すると、かなり上位に読売新聞の「ジャズピアノのレッスン内容の薄さに困惑しています・・・」が出てきます・・・検索上位=このページへのアクセスが多いと言う事は、もしかしたらそんなことが原因かもしれません(「アドリブは慣れればそのうちできるよ」で済まされていないでしょうか)。この疑問について、私はほぼ解決したと思いますので、その証明を、次のページの(2)に詳しく記します(ただしこれは、「沢山ある方法の内の一つ」かもしれません。他に無いという証明は出来ません)。上記記事では一応「着地原理」と書きましたが、ここでは「ジャズ即興演奏のための着地法則 Touchdown Rule for Jazz Improvisation」と命名しています。私の知る限り、この「法則」の発見と発表は、これが世界で初めてです。


「着地原理」(2)へ続く


ジャズ・ピアノ教室・レッスン
仙台市内で、ジャズピアノのレッスンを行っています(貸スタジオ等に出張します)。以下の3つがレッスンの柱です、ご興味ある方はmailをどうぞ。 

@「着地法則によるアドリブの方法」=「単位:unit」という考え方で 着地法則によるコードに合ったアドリブ・フレーズの作り方を具体的に学びます
A正確なタイム・キープ能力と、ピアノによる「ジャズ語=スイングする発音」の体得法=メトロノームの特殊な使用法
B指がよく動くようになる訓練法=薬指が動けば 「指が動かない」問題の多くは解決します ピアノを大人から始めて大丈夫です

(なお、ピアノ以外のメロディ楽器・・・例えば管楽器やギターの方でも、「どうしたらアドリブができるようになるのか」について、@&A=理論と練習方法を教えることができます。もちろん、楽器そのものについては教えられませんが。)

 このレッスンの目標は、ジャム・セッションに参加して、スタンダードの演奏で、本当にジャズのアドリブが弾けるようになることです。

 他には類を見ない、コード進行に合ったフレーズをアドリブで生み出していく方法を教えます(アドリブのコピーではありません。コードに対して「使える」スケールを教えるのでもありません。本当に即興で旋律を作り出す方法を教えます)。
 また、ジャズ・ピアノ初心者に(あるいはかなりやった人でも)有り勝ちな、「タッカ・タッカと跳ねてしまう」八分音符ではない、本当の「ジャズ語 Jazz Language」発音での、4ビートでスイングする八分音符の奏法を教えます。
 予め出来上がっているアドリブ・パート(何か変な表現ですが)を含む、スタンダード・ナンバーのアレンジ譜を演奏して「仕上げる」、というような、ある種クラシック的な(あるいはポピュラー・ピアノの)レッスンではありません。そういったレッスンでは満足できない、「ポピュラー・ピアノ」や「ジャズ風」ではなく、本当にジャズを演奏したい、実際にアドリブがしたい、スイングしたいという方のneedsに応えます(「ポピュラー・ピアノ」や「ジャズ風演奏」とジャズの共通点は、「コード進行」があることで、他は別のものだと思います。これらが出来ても出来なくても、ジャズの肝心要であるアドリブとスイング感をマスターする上では、あまり影響はないと思います・・・つまり、「ポピュラー・ピアノ」、「ジャズ風演奏」を全くできなくて大丈夫です)。私はビ・バップ、ハード・バップ等と呼ばれる、4ビートを中心としたモダン・ジャズのスタイルで演奏しています。indexページの sample music を参照してください。私はライブハウスで「ジャズ風」ではなく、ジャズを実際に演奏しているので、少なくとも、自分がどうやってこういう演奏が出来るようになったのかは、教えることが出来ます。そういった事柄を具体的に、初心者でもわかりやすく教えます。


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