Tomohiro Nakayama's Page
pianist & writer 中山智広


Jazz Japan Mar.2015 vol.55 「チャーリー・パーカーの技法」を読む(文:中山智広) に書いた「着地原理」について
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2015年2月23日 記す

「ジャズ即興演奏のための着地法則(Touchdown Rule for Jazz Improvisation)」
真の「コードに合うフレーズ、メロディ」の作り方

フレーズの最後の音をコードトーンにすると、コードに合って聞こえるフレーズになります

 このことの証明を、以下に書き連ねています。


1.アヴェイラブル・ノート・スケールの不可解な点(アヴェイラブル・ノート・スケールはもうやめよう 真の理論を見出そう)
 現在までジャズ理論≒ジャズのアドリブ・フレーズを作る方法論、として主流の座にある(と思える・・・これに触れていない「ジャズ理論」は皆無に近い)、「アヴェイラブル・ノート・スケール」(正確にはその「ダイアトニックコードに由来するもの」=ウィキペディア)には、私には不可解な点があり、多くのジャズ初学者の「壁」になっていると推察されます(ちなみに available note scale は、英語には無い「和製英語」らしいです。本当はThe chord-scale systemと言うようです。また、dominant motion も和製英語で、本当はAuthentic (also closed, standard or perfect) cadence:だそうです)。

不可解な点1 「使い方・方法が無い方法論」
 Dm7に対し、「Dドリアン・スケール(=レミファソラシド)を使う」等と書かれていますが、具体的にどう使うのか、例えば、必ず「レ」から始めるとDm7に合って聞こえる(現実にはこれは全くダメですが)等の、「使い方」、「方法」、「法則」、「ルール」の類がありません。「トンカツには豚肉、塩、胡椒、小麦粉、卵、パン粉を使う」という「材料の提示」までで終わっていて、「豚肉を卵に漬けてパン粉をまぶす」のか「油で揚げる」のかといった「方法」の部分が欠けているのに、これが「調理法」だと言っているように見えます。例えば、「スケールを使うとは、音階の順次進行のことを指す。上昇、下降どちらも含む」ぐらいは明示してほしいのですが、これもありません。もちろんこの定義では、「それでは、一音飛ばすことはできないのか?」とか、更なる問題が生じてしまいますが。

不可解な点2 「長音階に別名を付けているだけ その意味が不明」
 また、このDドリアン・スケールと、例えばG7に「使う」と言われる「Gミクソリディアン・スケール=ソラシドレミファ」は、両方ともハ長調=Cの長音階であり、出発点が異なるだけです。この長音階の出発点が異なるだけで、異なった「音階 スケール」であるという分類、定義は、どう考えても論理が破たんしていて、私には理解不可能です。要するにDm7とG7には「ドレミファソラシド=ハ長調を使う」で十分ではないでしょうか?最大限好意的に見るならば、出発点に旋律構成上の何らかの意味があるということになりますが、その意味はどこにも出ていません。もしこれが「音階 スケール」ではなく、「旋法 モード」だと言うのならば、モードは音の順番を規定するらしいので、まだ成り立ち得るとも思いますが、ただし、例えば本来の「Dドリアン・モード」(教会旋法)は、終止音がDという決まりが付くらしいです。つまり「アヴェイラブル〜」とは全くの別物です。

 (そもそも「ドリアン云々」は、ジャズ界に「モード」なるものが入って来た1950年代後半に登場した「概念、あるいは用語」だと思うのですが、その遥か以前からパーカーもガレスピーもパウエルも、テイタムもレスターもサッチモも、見事なアドリブを演奏していました。この事は「アヴェイラブル〜」に対する疑義の、本質ではないとは思いますが。)

 プロ・ミュージシャンに尋ねても、「ドリアン、ミクソリディアン・・・なんて考えてないよ」という答えが返ってきます。現実には、自分も含め多くの演奏者は、レコード等に録音されている、良いと思えるアドリブ・フレーズを数多くコピーして、実際にそれを何回も演奏しているうちに、自分のフレーズも生まれ(その中にはイーカゲンなコピーに由来するものもあり)、アドリブがまるで言語のように、「何となく」できるようになっていきます(何年もかかって)。そもそも言語、特に文章ではなく会話は、草稿を読むのでもない限り大方がアドリブですから、かなり似ています。近年比較的よく言われるようになったのは、「アドリブって、要するにコピーして多くのストック・フレーズを貯めて、それを実際の演奏ではつなぎ合わせているのだ」でしょうか。これは正しい部分があると思います。ジャズのアドリブは外国語を話すことに似ているところがあり、従って最低限「単語」「熟語」ぐらいは覚えなくてはならないというわけです。ビ・バップで様々なプレーヤーによって共通に使われる、「常套句」というべきフレーズは、覚えこんで使うと効果的です。しかしこの場合も、なぜそのコピーしたフレーズがコード進行に合っているのか、そもそも、そのフレーズを最初に演奏した人は、どうやってそのフレーズを作ったのか、という根本的な問題が残りますし、コピーしたフレーズの並べ替えだけで全てを構成した演奏は皆無で、やはり「即興」で出てきたアドリブ・フレーズが多く存在している、というのが実態です。

 この「アヴェイラブル・ノート〜」で挫折する人も多く、これはもう1970年代から変わらないと思われます(何と40年前です!)。私の記憶では、1976年の月刊「ジャズ」(アン・エンタープライズ発行:これは今も続く某ジャズ学校の事かと思います)に「ジャズピアノ講座」が連載され、翌年の「スイング・ジャーナル」でも本多俊夫さんによる「ジャズアドリブ入門(だったかな?)」が登場して、いずれも「アヴェイラブル・ノート〜」の話でした(本多さんの記事には、「ジャズの曲はUm7-X7だらけで、従ってアドリブをするには、まずUm7-X7のフレーズを沢山覚えることだ」と書いてあって、これは大変役に立ちました)。また当時ジャズ理論書の「大御所的存在、元祖?」として「ジャズ・スタディ 渡辺貞夫著」があり、これまた「アヴェイラブル・ノート〜」でした。私は「これがジャズのアドリブの方法だ、これでアドリブが出来る!」と思って、ワクワクして読んだのですが、これらの「スケール」を各コードのルートからただ上がったり下がったりしても、さっぱりジャズどころか音楽にならず、???だった、というわけです。つまり、まず自分が挫折しかけたのでした。
 
 (ちなみに月刊「ジャズ」は、1975年8月海潮社創刊の月刊「ジャズランド」とは別の雑誌です。こちらの「ジャズランド」創刊号には、当時ジャズ喫茶「ピーターキャット」のマスターだった村上春樹が、「ジャズ喫茶のマスターになるための18のQ&A」を書いていて、これは恐らく村上春樹の公刊された文章では、一番最初のものです。私コレ持っています・・・ノーベル賞取ったら高く売れないだろうか。ちなみに高校生の時一度だけ、国分寺南口にあった「ピーターキャット」に行ったことがあります(私の高校はお隣の国立市にあります)。店番がどんな人だったのか、残念ながら覚えていません。77年には「ジャズライフ」も創刊されて、何か今では信じられないようなジャズの活況がありました。)

2.「目的:半ば『無意識に」実行されている真の方法を見つける」
 意味不明な「アヴェイラブル・ノート・スケールを使う」ではなく、真の「コードに合うフレーズ、メロディを作る方法」が、自分を含めてジャズ・プレイヤーによって、ある種「無意識に」実行されていると考えられ、その方法の発見を目的としました。これは多くの「アヴェィラブル・ノート〜」で挫折する人を救済する方法になります(逆に、私と違って「アヴェイラブル・ノート・スケール」が理解できている方には、本稿は無用の長物です)。

3.「分析方法」
 著名奏者のアドリブのコピー譜を分析しました。分析対象は、いわゆる「ビ・バップ〜ハード・バップ」スタイルに入る、テンポ=四分音符140〜210程度の、4ビートのアドリブです(これより速いテンポの演奏はコピーが大変なので除外、また遅いテンポは16分音符が増えるので除外しました。)。対象となったミュージシャンは、ソニー・クラーク、トミー・フラナガン、ハンプトン・ホーズ、バド・パウエル、ハンク・ジョーンズ、バリー・ハリス、ジャッキー・マクリーン、ソニー・スティット、デクスター・ゴードン、、ハンク・モブレー、マイルス・デイビス、リー・モーガン、チェット・ベイカー、グラント・グリーン等です。当然無作為抽出をやったわけではなく、これらのサンプルには「私の好み」という偏りがあります。また60年代のいわゆる「モーダル」だの「新主流派」だのと言われる演奏、また、コルトレーンとその影響下にある演奏等は入っていません(これらはコードを代理コードやトライアドで拡張して解釈していたり、その上のペンタトニックや4度スケール等をフレーズとして使っていると思われます)。当然「フリージャズ」も入っていません。しかし「ビ・バップ〜ハード・バップ」が、「ジャズの基本」で、ジャズを演奏したい人の多くが目指している音楽なのだと、経験的に思っています。

 なおコピー譜は、かつて自分で行ったものから始めましたが(ここに揚げているものは、その一部です)、それだけではなく、現在ネット上に沢山あるものも利用させていただき、数十曲を分析しました。自分のものも含めてこれらコピー譜には「間違い」があると思いますが、私はテキトーなので、細かい点は気にしていません。個々の演奏ではなく「全体像」を知ることが目的で、他のことにエネルギーと時間を無駄にしたくなかったからです。それにしても便利な時代になったものです。

 「アドリブ・フレーズをコードのルートやコードトーンから始める」ことは、初心者が(私も)やり勝ちですが、これ(だけ)では「コードに合ったフレーズ」にならないことは、経験的によく知られていると思います。またコードトーンではない音や、アヴォイド・ノート(後述)から始まる曲、メロディもたくさんあります。例えばNicholas Brodszky作曲のBe My Loveの第一小節のアタマの音は、この小節のコード=トニック・メジャーに対する完全4度、すなわちアヴォイド・ノートで、しかも付点二分音符という、この曲中で最後の全音符を除けば、最長の音符です。もっと知られた曲では、Fly Me To The Moonの第15小節のコードはトニック・メジャーですが、メロディのアタマの音は完全4度、つまりアヴォイド・ノートの付点四分音符です。これらはクラシックの作曲法では「倚音(いおん)」です.。決して「禁止音」ではないし、「短くしか使えない」とか、「経過的に使用するならばOK」ではない、「アタマで長く」使える音なのです。ただし倚音の「処理」、つまりこの音がコードに合うか合わないかは、次の音が何であるかにかかっています。

 なぜ自分では、ほぼ無意識に「コードに合ったフレーズ」が弾けているのか(これは本当に不思議でしたが、ジャズピアノを始めて数年後には、そうなっていました)考えた結果、私は逆に、「フレーズの終わりの音」に着目しました。自分も含めた様々なプレイヤーのアドリブ・ソロの、「コードの支配領域」、つまり一小節に一つのコードが付けられている場合はその一小節、コードが二つ付けられている場合には2拍分(4ビートの場合)の、フレーズの「最後の音」、いわば「着地点」が、コードに対してどういう音なのかを調べました。

4.「分析結果」
 以下に実例のほんの一部を示しますが、赤丸で囲んだ音符が、コードトーンがフレーズの最後に来ているケースです。その上には各コードにおける度数が書いてあります。なおここでは、コードトーン=1、3、5、7度の4音としています。ただしT、Tmの場合は6度もあります。以下の譜面では単に数字のみで1357等と示してあります。また、9を2とは書いていませんが、11を4、13を6と書いたところもあります。個人的にあまり数字が大きいとわかりにくいという、イーカゲンな理由からですが、譜面を書いた時期がまちまちなので、統一されていません。長短、増減、完全等の音程の詳細は省いているので、例えば同じ「3」であっても、長短両方があります。セブンスコードの9、11(4)、13(6)等が変化した、いわゆる「オルタードテンション」には♭、♯がついています。なおこれらのコピーはLP時代の二十数年前に行ったものです。先に書いたように、正確さは保障できません。その他細かい間違いは多々あり、また表記法が正式なものと違う点も多々あると思いますが、気にしないでください。

図1:Jackie McLean の「I Love You」 のコード進行でのアドリブ
テーマの最後の4小節から、ピックアップ〜第一コーラスのコピー譜


BlueNote BLP4032 ’Swing Swang Swingin Jackie McLean' の'I Love You'から
 コード34個に対し、赤丸は26あり、76%を占める。その他の場合の内訳は、9thが3個、ドミナントの6th(13th)が1個、ドミナントの♭9thが1個、サブドミナントの4thが2個(第24小節はCAかもしれない)。ここの一連の譜面では、CAはクロマティック・アプローチの意味で、1個(又は2個)ある。CAは半音上か下からコード・トーンに解決する、というのが一般的なルールである。第28小節のD7の後半2拍では、第29小節のアタマのD音を「ターゲット」とした、「ダブル・クロマティック・アプローチ」が行われている。これはコード・トーン(この場合D音)に対する装飾技法と見ることができ、従ってここはGm7のフレーズが、先取りして始まっていると見る事ができる。この音=D♭音は、D7のM7thと言うより、次の音=D音に対する半音下の音である。第16小節もGm7が先取り、第24小節の最後は、Gm7♭5が先取りして始まっていると考えられる。小節線が必ずしも「コードが支配する領域の境界」とはなっていない。ここには無いが、逆に「ディレイド・リゾルヴ」で、フレーズが小節線を超えて、次の小節にまで伸びることもありうる。アドリブはフレーズがコードに合っていれば、この種の伸縮はある程度自由が効く。いわゆる「アヴォイド・ノート avoid note」(コードの響きを阻害する音、禁止音とも呼ばれる。5.参照)でフレーズを終わるケースは無く、「アヴォイド・ノート」でフレーズを終わると、コードに合わないということが推察できる。

図2:Tommy Flanaganの「Softly〜」のコード進行におけるアドリブ
テーマの最後の4小節から、ピックアップ〜第一コーラスのコピー譜

JVC RVJ6089 'The Standard The Super Jazz Trio'の’Softly As in a Morning Sunrise'から
 元の進行にあるAセクションのDm7♭5はかなり省略していると見ている。なおビ・バップではUm7(♭5)−X7において、Um7(♭5)は無い(=X7のみ)と考えることがよくある。赤丸はコード数33個に対し26個で、79%。この他♭13th=2個、9th=2個。またCA=2個。
 やはり、小節線が必ずしも「コードが支配する領域の境界」とはなっていない。第4小節(テーマの最後)の16分音符は、次のアドリブの第一小節のフレーズの前打音と書いたが、CAであり、次の小節のフレーズの始まりが「喰って」いる。アドリブの第4小節の前半は、音形からはDm7♭5が残っていると見える(逆に第28小節は音形から、Dm7♭5が省略されてG7のみと思われる)。第8小節の重音「Cm」も、喰って始まっている。また、アドリブの第3小節後半2拍のフレーズ(CA).は、第4小節のフレーズのアタマ、C音を「タ−ゲット」にした「ダブル・クロマティック・アプローチ」である。C音はDm7♭5の7thであり、これに対する半音上のD♭音が、(直接の)CAでフレーズの最後の音に当たるが、、この音はCmの♭2ndであるとは言い難い。一般にクロマティック・アプローチは「コード進行と無関係」で、コードトーン単音に対しての(ターゲットにした)フレーズであるが、ちょっと無理にコードで説明するとすれば、第3小節後半の2拍から先取りして、Dm7♭5が始まっていると考えらえれる。第23小節の最後のG♭音はF音を「ターゲット」にしたCA。F音はG7の7th.。第23小節のコードもG7と考えた方が妥当で、そうするとこのG♭音は、フレーズの最後の音ではない(2小節以上同じコードが続く場合、最後の小節の最後の音が「フレーズの最後の音」と考える)。第3小節のダブル・クロマティック・アプローチは、丁度これと逆の感じの、上記Jackie McLeanのダブル・クロマティック・アプローチと共に、ビ・バップで非常によく使われる。

図3:Barry Harris の「All The Things〜」のコード進行によるアドリブ
ピアノの第一コーラスのコピー譜


Prestage PR7680 'More Power Dexter Gordon'の'Boston Bernie'から
 赤丸はコード数34個に対し30個で88%(!)。この他9th=2個、♭9th=1個、CA=1個(次の小節のアタマ、Cの5th=G音がターゲット)。第8小節の前半2拍のフレーズは、前掲Tommy FlanaganのCダブル・クロマティック・アプローチとほぼ同じで(ここではターゲットはC音)、最初のA音は、B♭音の聴き間違いかもしれない。そうだとすると全く同じフレーズであるが、コードがCである小節の、CAがアタマから始まっている例となる。

図4:Sonny Clarkの「Blue minor」のコード進行によるアドリブ
ピアノの第一コーラスのコピー譜

BlueNote BLP1588 'Cool Struttin' Sonny Clark'の'Blue Minor'から
 コード数37個に対し、赤丸=26個で70%。その他は9th=2個、♭10th=1個、♯11th=3個、♭13th=1個、4th=1個、、ブルーノート・スケール=2個(11、12の2小節)。
 第22小節の4th=ドミナント・セブンスに対する「アヴォイド・ノート」になるが、ここは解釈上は第21小節から「B♭m7」を続けているようだ。B♭m7≒Gm7♭5でもある。そう考えるとA♭音=7thとなり、赤丸は73%となる。実際聴感上も違和感はない。第16小節の最後は、次のフレーズの前打音と書いてあるが、CAであり、ここからB♭m7が始まっていると考えた(第17小節アタマのC音はD♭音の間違いだと思う)。「B.N.S.」はFブルーノート・スケール。

図5:いわゆる「循環コード(Rhythm Change)」におけるDexter Gordonのアドリブ
「Second Balcony Jump」第二コーラスのコピー譜

BlueNote BLP4112 'Go Dexter Gordon'の’Second Balcony Jump'から
 「循環」はブルースと同じく様々な解釈、変形が可能だが、ここでは原曲は非常にシンプルな形とした。第5、6小節や、「サビ」で、Dexはセブンス・コードを使っていないようである。ただし第27、28小節は、思い切った変形が行われている。第29小節のB♭の半音上のコードB(≒ドミナントであるF7の「裏コード」)をターゲットにした変形。35個のコードに対し、赤丸=31の89%(!)。この他は、6(13)th、♯11th、♭9thが1個ずつ。なお、冒頭は「My Heart Stood Still」の引用。

5.「結論」
 結果から判ったことは、「あるコードが適用された範囲」、すなわち一小節に一つのコードが付いた場合はその一小節、コードが二つ付いている場合には半小節分の範囲で、フレーズの「最後の音」は、

1:圧倒的に「コードトーン」が多い。全体の7割から9割近くを占めた。
2:数は少ない(約3割〜1割)が、「ナチュラル・テンション」=9th、6th、サブドミナントの11th,、その他ドミナントの「オルタード・テンション」がフレーズの最後に来る場合もあった。
3:「アヴォイド・ノート」がフレーズの最後に来る例は、ほぼ皆無だった。
4:以上の他は、クロマティック・アプローチだった。今回の多くの場合は、フレーズの「最後の音」は、次の小節のフレーズのアタマ(コード・トーン)に対する半音下か上であったが、この場合前の小節のCAを含むフレーズから、次の小節のコードが先取りして始まっている(従ってこれらCAはフレーズの最後の音ではなく、途中の音である)と考えた。クロマティック・アプローチは、単音(コードトーン)に対するアプローチ・ノートであり、これによって出来るフレーズそのものは、コードには関係ないと考えられる。

 従ってコードに合って聞こえるフレーズを作るには、フレーズの最後の音をコードトーンにすること(が一番有効)と考えられます。恐らく一番「コードに合うという意味でわかりやすいサウンド」になります。次に有効なのは、実例は少なかったですが、ナチュラル・テンション(6thと9th)、またはオルタード・テンション(これは7thコードの場合に限りますが)で終わることです。もしかしたら、「やや複雑なサウンド」に聞こえます。また、最後を「アヴォイド・ノート」にすると、そのフレーズはコードに合わなくなります。複数の小節で連続して同じコードが続く場合は、ここに挙げた実例では「一小節ずつ、フレーズの最後の音をコードトーンにしている」ケースが多いですが、「最後の小節だけ、フレーズの最後の音をコードトーンにする」で問題ないと考えられます。以上の事柄は実際のピアノ等コード楽器で演奏して、聴感上でも確かめられます。この現象はフレーズの「着地」点を問題にするので、「着地法則」と名付けました。また「着地」は「解決」と似ていますが、「解決」は既に「ドミナントからトニックへの解決」のように、音楽の中でよく使われているので、「着地」にしました。

 こうやって見出した結論は、世の中に出回る分厚い「理論書」なんかと比べて、何だか随分簡単な「理論」に見えますが(要するにフレーズの終わりをコードトーンにする「だけ」で、コードに合うフレーズが出来るのですから、前置きが長すぎる感じですね)、逆にこのぐらいシンプルなルールでないと、コード進行を見て即興で「コードに合った」演奏を行うなんて、出来るわけないと思いませんか?かつてどの本だったか忘れましたが、ビル・エヴァンスが「ジャズでは間違った音を出してしまっても、後から即興でいくらでもカバー(フォローだったか?)できる」というようなことを、インタビューで答えていました。これは結局ここに書いた、「着地」のことを語っていたと解釈できます。そしてこの「シンプルなルール」は私が知る限り、これまでどこにも発表されていません。私が「月刊ジャズ・ジャパン」2015年3月号に書いたのが、恐らく世界で初めてです(近々ここに英語版も出すつもりです)。

 ここに上げた実例は、ほとんど全てが「曲の部分転調で決定している長音階または短音階上、半音階(実例はCAと表記したクロマティック・アプローチ)、あるいは「オルタード・テンション」を含む音階(今回挙げた実例では、Jackie McLeanのI Love You アドリブの第30、第30小節のC7。コンビーネーション・オブ・ディミニッシュと思われる)の任意の音を経由して、コードトーンで終わるフレーズ」で構成されています。これが最も一般的な、「コードに合ったフレーズ」を作る方法でしょう。その中でも最も簡単な方法は、曲の部分転調で決定している「調」の長音階または短音階を経由して(簡単に言えば、下記「番外編」のAから考えて、これらの音階を「上下」したり、また長短3度の跳躍をして)、コードトーンで終われば、「コードに合ったフレーズ」になる、コードに合って聞こえる、ということです。従って実際のアドリブ演奏では、曲の分析を行い、最低限部分転調は把握しなければなりません。

 また、「ドリアン」等のいわゆる「アヴェイラブル・ノート・スケール」については、これで説明しなくてはならないような事態は皆無です。従って、ジャズでよく使われる「スケール」には、「長音階」と「短音階」、「半音階」、セブンス・コードの「オルタード・テンション」を含む音階、すなわち「コンビネーション・オブ・ディミニッシュド」「オルタード」「リディアン7th」等(これらの名称も、英語の本当の名称は違っていそうですが、よくわからないので、ここでは慣例に従っておきます。リディアン7thは、リディアン・ドミナントかも)があり、「長音階」の出発点を変えただけの「アヴェイラブル・ノート〜」は意味がないと思われます(実は「オルタード」と「リディアン7th」は、旋律的短音階上昇形の出発点を、それぞれM7thと4thに変えただけですが、これらは元の短調ではないところで使うので、意味があると思います。「裏コード」同士が同じ音階になります)。この他原曲のトーナリティに合った「ブルーノート・スケール」(実例はSonny ClarkのBlue Minor 11、12小節)が使われていましたが、これはコードに対しては「破格」というか、オール・マイティで、トーナリティが合っていれば使えるのだと考えています。「ペンタトニック」もあちこちにあると思いますが、ここではそれは、長音階、短音階の中のフレーズの一種と見て、いわゆる「スケール」としては見ていません(しかし、実は上昇下降するだけでフレーズ、メロディになるという、もっとも「スケール」、更には「モード」らしい素材と言えます。メロディの作り方の一種、と言う感じか。ほとんどペンタトニックから出来ているスタンダートのメロディも結構あります)。

 重要なことは、後述する「ピーク・エンドの法則」から考えると、いかなる音階(あるいは音階じゃない音の並び)を使おうとも、「着地法則」が適用できることです。

 上記の2のケースに戻りますが、フレーズを「テンション」で終わる場合の方が多い(極論すれば全部の)アドリブが、可能(コードに合って聞こえる)か?という問題があります。今回分析した対象には見当たらなかったですが、これは恐らく可能で、「スタイル」の問題ではないかと思います。すなわち、「ハード・バップ」よりも新しい、60年代以降のスタイル(ピアノで言えば、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナーのようなプレイヤー)の場合は、このケースが増えるのかもしれません。理由の一つは代理コードを多用すれば、元コードに対する「テンション」が増えるからです。また代理の代理というように、代理コードを重ねていくと、元コードの「アヴォイド・ノート」で終わるケースも、全く無しではないかもしれません。図5の第27.28小節、デクスター・ゴードンはこれに近い感じです。しかし最低限確実なことは、フレーズをコード・トーンで終われば、そのフレーズは確かにコードに合う、ということです。

 最後の音ではなく途中を代理コード等で、いわゆる「out」させて、最後は元のコードトーンに「着地」するのも、有効な方法と思われます。また曲の部分転調で、あるいは代理コードで決定している、長音階または短音階等を経由せずに(極論すればデタラメで)、フレーズの最後だけをコードトーンにした場合も、コードに合って聞こえる可能性が十分あります。これらについても、今回分析した例にはありませんが、もっと新しいスタイルにはあるのかもしれません。

 またいわゆる50年代末からの、いわゆる「モードで作曲された曲(と、そういう部分がある曲)」についても、今回は検討の範囲外です。

(アヴォイド・ノートについて)
 「アヴォイド・ノート」の定義としては、「アヴェイラブル・ノート〜」の中では、フレーズを作る上で「強調してはいけない」「音価が短ければOK」「経過的に使える」等の曖昧な説明が使われていました。しかしこれがおかしいことは、3.「分析方法」に書いたNicholas Brodszky作曲のBe My Loveの第一小節のアタマの音で明確です。クラシックの作曲法の「倚音」が、全く考慮されていないのです。「倚音」は、必ず和声内音=コードトーンが次に来て、「解決」されますから、これは「着地法則」と同じです。結局「アヴォイド・ノート」は、「フレーズの終わりに持ってくると、フレーズがコードに合わなくなる音」です(ただし、ディレイド・リゾルブの途中の音や、先取り音として小節の最後に来ることはあり得ます。これはコードが適用される領域とフレーズがズレていて、フレーズの終わりの音ではないことになります)。
 「アヴォイド・ノート」は、調性が決定できている範囲において、その調性の(音階上の)「アヴォイド・ノート」は、長調の場合はトニックのルートに対する完全4度(ドに対してファ)と、短調の場合はトニックのルートに対する短6度(ドに対してラ♭ ただしメロディック・マイナー・スケール上行型にはこの音がありません))、および長短調のドミナントセブンスのルートに対する完全4度(ソに対してド)だけで、サブドミナントのコードには無いと考えています。「アヴェイラブル〜」では長調のUm7に対していわゆる「ドリアン・スケール」を適用し、「アヴォイドノート」は6度(DドリアンならばB=シ)である、と説明されますが、これが無いと考える理由は、Um7=W6の展開型であって、Wには(いわゆる「リディアン・スケール」適用と考えてもいいですが)アヴォイドが無いこと、また現実にトニック・マイナーとしてはマイナー6thコードがあり、Um6も良い響きとして成立しているからです。
 サブドミナントにはそのトーナリティの音階上の音ならば、何でも合う(何でもフレーズの終わりに持ってきてよい)と考えています。だから「トニック」でも「ドミナント」でもない「方向性があいまいな中間」で、Um7-X7にある場合、フレーズ作りの上では省略できるし、逆に単独のX7の前に加えてもいいのだと考えています。また短調のUm7♭5の場合、「ロクリアン・スケール」を適用し、アヴォイドは短二度(レに対してミ♭)と説明されますが、この音もWm(キー=Cmの場合Fm)に対しては協和する(7thに当たる)ので、アヴォイド無しと考えています(実は私は短調の場合、Um7♭5-X7を、X7だけと考えている場合が多いのですが)。

(「表の八分音符をコードトーンにすると、コードに合う」という説は?)
 なお、八分音符でフレーズを作る場合に、「表の八分音符(これをダウンビートと言うこともあるようですが、100%ではないようです。英語では表と裏は、beats 1 and the “& of 1”、つまり「1ト」と書いてあるのを見たことがあります)をコードトーンにすると、コードに合って聞こえる」と言われることがあると思います。これは一時ジャズ雑誌等によく出てきた「ビ・バップ・スケール=ダイアトニック・スケールに半音一音を加えた8音スケール」についても、その解説として言われたことで(もありま)す。私の経験上は、一般性、汎用性を持つルールとしては、そのようなことはないと思っています。ここまでに説明した、「フレーズの終わりに持ってくる音がコードトーンならコードに合って聞こえる」状態は、4拍子で偶数個の八分音符で出来たフレーズの場合、「表」ではなく、(最後の)「裏」の八分音符をコードトーンにしています。また、よく出てくる慣用句、例えばDm7での,(八分休符)+レファラミレソファ(八分音符7つ)、というフレーズも、後半では表の八分音符はコードトーンではありません。クロマティック・アプローチによるフレーズ、例えば「ブルー・モンク」のテーマでは、「表」である3個目の八分音符は、コード・トーンではありません。コンビネーション・オブ・ディミニッシュド・スケールでも、例えば先にあげたジャッキー・マクリーンの「I Love You」のアドリブの第6小節(C7)は上昇の例ですが、2拍目表の八分音符がコードトーンではありませんし、第30小節の下降ではコードトーンは全て裏に来ています。この説には、何か他の必要条件(例えば「ダイアトニック・スケールを順次進行するフレーズの場合のみ」とか)が欠けているのでしょうか?あるいは、私が何か誤解しているのでしょうか?まあ、特に困っていないので深く考えないことにして・・・。

(クロマティック・アプローチ=CAは非常に大切だが「スケール」からは絶対出て来ない)
 クロマティック・アプローチについて、正確にはアプローチノートとパッシングノートがあると思いますが、私はイーカゲンなので、区別していません。ここまでのコピー譜でも出てきましたが、全てCAとしています。これも「アヴェイラブル・ノート〜」では説明がつかない事で、明らかに「スケール」にはない音なのですが、ビ・バップでは非常に多用されていて、とても重要な方法です。「スケール」なんか知らなくても、これだけで十分、立派なアドリブができます。一般的にクロマティック・アプローチの使い方、ルールは、調性外の音からコードトーン(=ターゲット=目標、「解決」する音)に半音下がるか上がって「解決」する、と解説されていると思いますが、これも一種の「着地」とみなすことができます(逆に言うと「着地」は、「ターゲッティング」でもあります)。コードトーンに着地することによって、そのフレーズはコードに合って聞こえるわけで、例えば「ブルー・モンク」のテーマのはその典型です(これは半音階を使って作曲したのだと思いますが)。CAを使ったフレーズには、先にあげたJakie McLean、Tommy Flanaganのダブル・クロマティック・アプローチのように、次の小節のアタマの音(コード・トーン)を「ターゲット」にしたフレーズもあります。クロマティック・アプローチは、コード・トーンの前に付く装飾技法と考えられます。この場合は「コードが適用された領域の最後の音」はCAそのもの(アプローチ・ノート)になり、コード・トーンではありません。必ず次の小節までフレーズが続いて、次の小節のアタマが、次の小節のコードのコード・トーンになります。クロマティック・アプローチは、コード進行とは関係なく単音を装飾する技法ですが、無理やりコード進行に関連付けて説明すれば、このケースは次の小節のコードのフレーズが、前の小節の第3拍から先取りして始まったのだと思います。そしてCAの(フレーズの)前の音は、コードトーンになっている、つまりそこで前のフレーズは「着地」している、というケースが多いです。

 以上は「帰納法」で確認した事ですが、次に「フレーズの最後の音をコードトーンにすると、そこまでにどんな音を経由していても、コードに合って聞こえる」ことの(演繹的)理由です。なぜフレーズをコードトーンで終わると、フレーズ全体がコードに合って聞こえるのでしょうか?



ジャズ即興演奏のための着地法則」を裏付ける 
  ノーベル賞心理学者 ダニエル・カーネマンの「ピーク・エンドの法則」


 ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman、1934年3月5日 - )は、経済学と認知科学を統合した行動ファイナンス理論及びプロスペクト理論で有名なアメリカ合衆国(ユダヤ人)の心理学者、行動経済学者。2002年のノーベル経済学賞受賞者。(wikipedia 「ダニエル・カーネマン」から)

なのですが、ここで関係あるのは、彼が1999年(既成の「ジャズ理論」より新しいです!)に発見した「ピーク・エンドの法則」です。

 ピーク・エンドの法則(ピーク・エンドのほうそく:peak-end rule)とは、われわれは自分自身の過去の経験を、ほとんど完全にそのピーク(絶頂)時にどうだったか(嬉しかったか悲しかったか)ならびにそれがどう終わったかだけで判定する、という法則である。ピーク以外の情報が失われることはないが、比較には使われない。それには喜びもしくは悲しみの総量、またその経験がどのくらい持続したかですらも含まれる。(wikipedia 「ピーク・エンドの法則」から)

 人間の認知、判断についての理論ですが、早い話が「終わりよければ全て良し」のことです。Googleで「ピーク・エンドの法則」を検索すると、「立ち去る瞬間に好印象を残せる「ピークエンドの法則」とは何か?」とか、「別れを告げられたらピークエンドの法則で復縁せよ」等、実社会でのHow to的な話が沢山出てきます。また、ハリウッド映画などの「ハッピーエンド」もこの類でしょう。なるほど、「ストーリー」としては納得できる説ですが、この「ピーク・エンドの法則」がジャズとどう関係するのか?カーネマンはこんな実験をして、この法則を確認しました。

 「ある実験では、あるグループの人が大音量の不快な騒音にさらされた。2番目のグループは、1番目の人々と同じ大音量の不快な騒音にさらされたが、その最後に幾分ましな騒音が追加されていた。この2番目のグループのこの騒音聴取の体験の不快さの評価は、1番目のグループの人たちよりも低かった。最初の同一の騒音区間に加え、不快さを抑えた引き延ばされた区間があり、1番目のグループよりさらに不快であったはずであるにも関わらずである。」(wikipedia 「ピーク・エンドの法則」から)

 人間は「最後の音」でこんな判断をしたのです。途中の「ピーク」は不快でも、「エンド」が「まし」だったので、全体として「まし」な評価になったわけです。「音」についての人間の判断で、「ピーク・エンドの法則」が当てはまった、というか証明されました。しかもこの場合、「ピーク」よりも「エンド」の印象が全体の評価になったわけです。アドリブ・フレーズのような、本当に瞬間的な判断が要求される場合、(「ピーク」よりも、というか僅か1小節かそれ以下だったりする短い単位では、ピークは無いも同然なのだと思います)「エンド」の印象が決定的なのだと思います。これが「コードに合ったフレーズを作るには、フレーズの最後の音をコードトーンにすることが一番有効と考えられる」こと=「着地法則」の、「理論的根拠」です。恐らく人間は、フレーズの最後の音がコードに合っていれば、途中がどんな音であっても、全体が「コードに合っていた」と評価するのでしょう。

 つまりこの「着地法則」は、音楽学、和声学、音響学で説明できるのではなく、心理学的な、認知、判断の問題です(人間が短時間で直感的に判断を下す、「ヒューリスティックス」の一種です)。


 この「Peak-end rule」に敬意を表して、「ジャズ即興演奏のための着地法則 Touch Down Rule For Jazz Improvisationと命名しました。



番外編 「残る重要問題」
 「着地法則」を使えば、コード進行に合ったフレーズを作ることができます。フレーズの最後の音をコードトーンに着地させることは、「アヴェイラブル・ノート〜」を闇雲に上下する事と違って、確実に「コードに合って聞こえるフレーズ」を生み出します。何の準備もせずに、本当の「即興」だけで、フレーズを1つのコードが適用される領域においてコードトーンに着地させることも、楽器を十分にマスターした人には可能です。アドリブにおいて重要な「どの音を選ぶか」という問題が、これで解決します。

 しかしこれを本当の「ジャズ」にするには、まだいくつか関門があると思います。最初に戻りますが、ジャズのアドリブは

@80%程度が8分音符で構成されていた。 

 つまり、それだけの高い演奏技術が必要になります(ただし調査したサンプルにはトロンボーンは含まれておらず、恐らくトロンボーンの場合は、八分音符はもっと少ないと思われます。ベースも同様と思われます。これらの楽器は細かい音符を演奏するのに、より「高い演奏技術」が必要だからです)。ジャズの八分音符の発音、僅かな長短、強弱、ビートに対する位置等、つまりスイングする「ノリ」」は難しく、理論的に詳細に渡った説明、方法論等は、いまだにほとんど開発されていません。特にピアノでは、初心者(いや、相当の年数の経験者でも)やクラシックから転向した人で、八分音符が「タッカ・タッカ」と跳ねることに悩む人は多いのではないでしょうか?これは結局耳で聴いて「ノリ」まで徹底的に真似する位しか、練習方法が無いのでしょうか?「スイングしなけりゃ意味はない」ですが、最高に難しい問題です。むしろ遅めの4ビート、スイング出来ない人が多いかと思います。私はある練習方法を続けて、それは効果があったようです(その結果はindexページのサンプル音源参照です)。

Aジャズのアドリブで、ある音から次の音に行く場合、音階(長、短音階、オルタード・テンションを含む音階)上の隣(上下方向あり)の音へ行く、半音階の隣(上下方向あり)の音へ行く、3度(長短あり)隣(上下方向あり)の音へ行く、で80%近かった。

 つまり、ジャズのアドリブは主として様々な音階の断片と、分散和音の断片で構成されています。これを実際に即興演奏術として使えるようにするには、やはりある程度は外国語の単語、短文暗記のような、「フレーズの断片」を覚えこむ練習が必要で、しかもこの「単語」は、Bの「着地法則」と結びついています。少なくとも、「アヴェイラブル・ノート〜」を私が最初に知った時に思った、「これらのスケールを適当に上下すればアドリブ・フレーズになるんだ!」というような、イージーな方法は無いのです(これは多分に、ブルースにおいてはブルーノート・スケールを上下すれば何とかなる、とか、ロックのアドリブはペンタトニックとブルーノートだ、みたいなことの影響かと思います)。 更に、先に少し触れましたが、クロマティック・アプローチは「アヴェイラブル・ノート〜」からは説明できませんが、いわゆる「ビ・バップ〜ハード・バップ」スタイルでは非常に多く使われます。これだけで作ったフレーズも多いです。ベースとなるのはクラシックの装飾技法や作曲法(3.であげた「倚音」の他、「刺繍音」等、「非和声音」の「処理」・・・何と、「非和声音」は大方「処理」されなくてはならないのです!)で、ルールがいろいろあります。即興演奏=即興作曲ですから、作曲法は役立つと思います(私はあまり詳しくないですが、いつかちゃんと読みたいと思っています)。大原則は「和声外音(ノンコードトーン)=装飾音」を経て、落ち着き先が「和声内音(コードトーン)=主音」ということです。落ち着き先(主音)が「和声外音」のケースもあり、これらについては「チャーリー・パーカーの技法」第一章が詳しいですが、結局、装飾音=前打音、トリル、ターン、プリルトリラー、モルデント、後打音・・・は、聞こえ方、機能としては単に主音を弾いたことと同じなわけで、「始まりの音(装飾音)ではなく、終わりの音(の意味、機能)が残る」=「ピーク・エンドの法則」」があてはまります。初心者にありがちな、コードトーンで始まるフレーズが、それだけでは残念ながらコードに合わないというのは、装飾音と逆の構造になっているわけです。始めではなく、終わりの音が大事なのです。これもまた「ジャズ」の演奏をする為の、必須事項ではないかと思います。

(そしてもちろん、本当のジャズに必要なリズム=「スイング」が出来なくては・・・これは最大の関門でしょう。これには「ジャズ語 Jazz language」 の発音が欠かせないと思うのですが、もう十数年も前の2002年に「ミンガス」のHPに書いた、「なぜクラシック・ピアノは弾けるのに、ジャズ・ピアノは弾けないのか」です。これは@に書いた八分音符のジャズ特有の発音が、大方を占めると思いますが。)

 こういったことの為の実用的メソッド、エチュードは、そのうちに「教則本」にでもしようかと思って開発しました。骨子は、曲の「部分転調」の把握のための和声理論と、「着地法則」を使えるようにするために、「単位(ユニット)」という考え方を導入した、独自の方法論です。実際にある若いプレイヤー(一人はクラシックから転向した人で、管楽器。楽器そのものの技術はありました。また「アヴェイラブル・ノート〜」を知っていましたが、「わからない」と言っていました もう一人若いギタリストで、もうプロになりかけている人もいます。この人はアドリブはある程度は出来ていました。)に一種の「実験」として教えましたが、大きな効果があったと思います。

 indexページにUPしてある私の演奏は、全てこの「着地法則」によるものです。ダイアトニックコードに由来する「アヴェイラブル・ノート〜」は全く考えていません(そもそも各スケールの名前もよく覚えていません。今回アヴォイド・ノートの確認のために久しぶりに「理論書」の類を見ました)。長音階、短音階、半音階の他にスケールとして端から端まで覚えたのは、7thコードに対するコンビネーション・オブ・ディミニッシュド・スケールだけです(オルタード、リディアン7thは覚えていません。「コン・ディミ」だけ知っているのは、3種類しかないので覚えやすかったから、というフトドキな理由からです)。

(ピアノでは、八分音符がタッカタッカと跳ねてしまう人が結構いると思います。跳ねるのではなく、弾んでいる=bounceする スイングする「ジャズ語」の発音の訓練方法も考えて、実際自分でやってみました。またこれに関連して、ピアニストの表裏の八分音符の長さの比や強弱も調べてみました。この一部は「ジャズ批評」のソニー・クラーク特集「(譜面に書けない=もしかしたら役に立たない)ソニー・クラークの奏法分析」に発表しています。)

 なお最近では、「アヴェイラブル・ノート〜」は、「バークリー理論」である、すなわち米国のバークリー音楽大学が考え出した理論である、ということが言われるようになってきました(ですが、「バークリー・メソッド」も「和製英語」らしいです)。私が初めて「アヴェイラブル・ノート〜」を知った1970年代には、これがバークリー音楽大学発祥であるとは、言われていなかったと思います。私にはその真偽の程はわかりませんし、誰が作ったかには興味ありません。また、この「バークリー理論」に批判的な書物も出ていますが、それに代わる「代案」、「真の理論」の類は出ていません。私がここに書いた「着地法則」は、そういった世に出ている「(バークリー)批判」とは、全く無関係です。ですが、自分の40年前の経験から考えてみると、「アヴェイラブル・ノート〜」への批判が起こることは不思議ではないと思っています。あくまで個人の意見ですが、私はアドリブのための理論、方法論として、「アヴェイラブル・ノート〜」を覚える必要はない(そのエネルギーが勿体ない)、と思っています。「アヴェイラブル・ノート〜」は、日本ではもう40年以上も続いていますが、40年来の慣習を疑ってみることも、今はもう「有り」ではないでしょうか(また、本質ではありませんが、この名称自体、「和製英語」ということもあります。これは何か象徴的だと思います・・・もっとも、最近フランス人の友人から聞いたところでは、フランスでもジャズ教育では「コード・スケール」、すなわち「アヴェイラブル〜」を教えられるそうですし、米国の大方の大学にあるジャズの授業でも、似たような状況らしいです)。なお繰り返しますが、「アヴェイラブル・ノート〜」を理解している人にとっては、本稿は無用の長物です。もちろん、そういった人々と論争するような立場でもありません。私のように「アヴェイラブル・ノート〜」で挫折した人が、救済されて、ジャズを演奏できるようになるのが、一番良いことだと思っています。


(2015年2月23日 初稿。 追加、改訂は適時行いますが、根幹は変わりません。) 


ジャズ・ピアノ教室・レッスン
仙台市内で、ジャズピアノのレッスンを行っています(貸スタジオ等に出張します)。以下の3つがレッスンの柱です、ご興味ある方はmailをどうぞ。 

@「着地法則によるアドリブの方法」=「単位:unit」という考え方で 着地法則によるコードに合ったアドリブ・フレーズの作り方を具体的に学びます
A正確なタイム・キープ能力と、ピアノによる「ジャズ語=スイングする発音」の体得法=メトロノームの特殊な使用法
B指がよく動くようになる訓練法=薬指が動けば 「指が動かない」問題の多くは解決します ピアノを大人から始めても大丈夫です

(なお、ピアノ以外のメロディ楽器・・・例えば管楽器やギターの方でも、「どうしたらアドリブができるようになるのか」について、@&A=理論と練習方法を教えることができます。もちろん楽器そのものについては教えられませんが。)

 このレッスンの目標は、ジャム・セッションに参加して、スタンダードの演奏で、本当にジャズのアドリブが弾けるようになることです。

 他には類を見ない、コード進行に合ったフレーズをアドリブで生み出していく方法を教えます(アドリブのコピーではありません。コードに対して「使える」スケールを教えるのでもありません。本当に即興で旋律を作り出す方法を教えます)。
 また、ジャズ・ピアノ初心者に(あるいはかなりやった人でも)有り勝ちな、「タッカ・タッカと跳ねてしまう」八分音符ではない、本当の「ジャズ語 Jazz Language」発音での、4ビートでスイングする八分音符の奏法を教えます。
 予め出来上がっているアドリブ・パート(何か変な表現ですが)を含む、スタンダード・ナンバーのアレンジ譜を演奏して「仕上げる」、というような、ある種クラシック的な(あるいはポピュラー・ピアノの)レッスンではありません。そういったレッスンでは満足できない、「ポピュラー・ピアノ」や「ジャズ風」ではなく、本当にジャズを演奏したい、実際にアドリブがしたい、スイングしたいという方のneedsに応えます(「ポピュラー・ピアノ」や「ジャズ風演奏」とジャズの共通点は、「コード進行」があることで、他は別のものだと思います。これらが出来ても出来なくても、ジャズの肝心要であるアドリブとスイング感をマスターする上では、あまり影響はないと思います・・・つまり、「ポピュラー・ピアノ」、「ジャズ風演奏」を全くできなくて大丈夫です)。私はビ・バップ、ハード・バップ等と呼ばれる、4ビートを中心としたモダン・ジャズのスタイルで演奏しています。indexページの sample music を参照してください。私はライブハウスで「ジャズ風」ではなく、ジャズを実際に演奏しているので、少なくとも、自分がどうやってこういう演奏が出来るようになったのかは、教えることが出来ます。そういった事柄を具体的に、初心者でもわかりやすく教えます。

Copyright(C)2009〜 中山智広 Tomohiro Nakayama 無断転載を禁じます

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