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ソニー・クラークの八分音符の位置(スイングの方法論)
(中山智広著 「(譜面に書けない=もしかしたら役に立たない)ソニー・クラークの奏法分析」の続きです)


「実践!クラーク節」(ジャス批評110号/2002年1月 特集ソニー・クラーク)で、以下のように書きました。
http://nhy3.masa-mune.jp/clark3.html


クラークの「奏法」
 クラークの「ノリ」を完全に法則化、理論化することは到底できないのだが、とにかく彼の右手の「奏法」を探ってみよう。

@八分音符の長さ
 仮に今、
ウィントン・ケリーの躍動的な(跳ねているようで跳ねていない)ノリを「三連系」とする。ケリーのアルバム「ケリー・ブルー」(ビクター・エンターテインメント:VICJ−60169=Kelly Blue RLP1142)の「朝日のようにさわやかに」を聴くと、一拍の上の二つの八分音符の内、オモテの音符がかなり長いように聞こえる。プロ用のCDプレーヤーで1秒=74フレームの単位でジョグできるものがあるが、これを用いて八分音符のフレーズを数個所で測定したところ、平均してオモテ:ウラ=1.3:1、最もオモテが長い個所は1.5:1であることがわかった。一方ほぼ同じ速さのクラークの「朝日〜」(東芝EMI:TOCJ−66215=Sonny Clark Trio BN1579)は「三連系」の部分もあるが、より均等な八分音符に近く聞こえる部分も多い。その極致は先に挙げた「念を押すような」フレーズだが、「朝日〜」では2分6秒、2分24秒〜2分36秒あたりがそんな「ノリ」だ。こちらも同様に数個所で測定したところ、平均してほぼ1:1であることがわかった。しかもケリーはどこでもオモテが長く、比較的一様であるのに対し、クラークは同じ長さだったり、オモテがやや短いところがある(「念を押すような」ところ等)事がわかった。最もオモテが長い個所では1.3:1だった。つまりクラークのノリは多様で、ケリーのような「三連系」からオモテ・ウラが同じ、あるいはオモテがやや短い八分音符までを使っている、ということだ。測定器、方法ともに厳密なものではないし、恐らく曲のテンポによっても変わるのだろうが、参考にはなると思う。少なくとも教則本のような三連符の比ではないのだ。

A
(省略=サボっていて、その後特段の新しい発見はありません。下記をご覧ください。)

Bフレーズを弾くタイミング
 明らかにビートの後ろの方。先にあげた「念を押すような」ノリのところのベースとドラムスを聴いていると、はっきりとビートの後ろ寄りで弾いていることがわかる。これらは極端な例だとしても、クラークがビートに対して常に「粘って」弾いていることは間違いない。

なお、確認ですが です。

その後の十数年間で、これを「三連符」との関連で掘り下げて「位置」の問題に到達し、ほぼ解明していたので、ここに記します。
スイングするためには、八分音符の「長さ」と「位置」という二つの重要な要素があります。

なお、「強弱」もスイングするための重要な要素です。これはアクセントですが、管楽器ではタンギングによってエッヂを付けることに当たります。上記のAでは、
a 音程が上昇する場合は普通ウラが強い。
b 下降する場合はオモテもウラも同じような強さ。フレーズが拍のオモテから始まる場合、アタマだけ強いこともある。
c 上昇するのにオモテが強い個所は、続くウラも強い。このような例はフレーズのアタマに多い。
としましたが・・・下降する場合の「ウラが強い」ケースもあると思います。
またクラークを離れて、
例えばバリー・ハリスは、下降する場合にフレーズのアタマが強いケースがかなり多いように聞こえます。
「強弱」については、未だに一貫性のあるルールには到達していません。



(T:理論編)
「ジャズは一拍=三連を感じながら演奏する」・・・これは今ではかなり言われていると思います。
私がこれをハッキリ聞いた最も古い記憶は、2000年の12月31日深夜(奇しくも20世紀最後の日でした)、
一関「Basie」でElvin Jones 5の一員として来た、素晴らしい技巧を持つピアニストEric Lewis からでした。
off stageで彼に、「スイングするにはどうしたらよいのか?」と尋ねたら、「tripletを練習することだよ」という答えがありました。


その後何年かして判ったことは、「ジャズでは特に八分音符が他の音楽と違う。八分音符を一拍=三連と解釈して弾く」でした。
しかし、これは普通の八分音符と何が違っているのか?

これは「裏の八分音符の位置=三連符の三つ目の位置」にする、この「位置」をキープする、ということです。普通の八分音符より少し後ろなのです。
従ってジャズの八分音符は、表の八分音符がちょっと長い、又は音出しの位置がちょっと遅い、又はその両方、ということになります。

この表記は教則本等等に昔からありますが、今一つ定義がはっきりせず、
表と裏の比が2:1に見える、発音する位置についての情報が無い等の問題があります。
と言って、記譜法として良い代案があるわけではないのですが・・・以下では楽譜とは離れた図を描いてみました。

ソニー・クラークは八分音符を弾く時に、一拍の長さを100%とすると、16.66666...%=1/6拍遅れて弾きます。
こうすると、表の八分音符:裏の八分音符=1:1(イーブン)で、裏の八分音符の位置=三連符の三個目の位置、になります。
ここは66.66666%位置=八分音符(50%)+1/6拍(16.66666...%)の位置です。
クラークはこの方法で八分音符「平均してほぼ1:1」をキープしながらスイングしています。
(「平均」なので、逆に先に書いたように「表が短い」もありますが、このケースは少なく、例外、あるいは一種の「誤差」と見て、ここでは分析しません)

1/6拍=1拍÷2÷3です。
ここに真っ直ぐな棒があったとして、これを人間は目分量(感覚)で、すぐに二等分と三等分にはできます(やや正確さを欠くとしても)。
しかし、四等分は二等分×二段階で、これ以上の割り方は、「段階」を増やさないと出来ない・・・or 増やしてもできないです。
16.66666...%=1/6拍は、この人間生来の「÷2」と「÷3」の感覚を駆使した数値です。

図を書くとこうなります(%の小数点以下省略 例えば本来66%=66.66666...%です)。




こちらはウィントン・ケリーの1.3:1の場合です。クラークの最も表が長いケースも同じです。


ケリーの最も表が長い1.5:1の場合は、6%遅れて始まり、音価=60:40(%)になります。66%の位置から裏が始まるのは変わりません。


なお、大方のバップ系ジャズ・ピアニストの八分音符は、クラークとケリーの間にあり、これを「スイングする八分音符」と考えています。



(U:実践編)
スイングするには、66%の太字のところでメトロノームを鳴らして練習すればよいのですが、具体的にどうすればよいのか?
「アタマを16%遅らせる」なんて細かいことは、私は「雰囲気、感覚」ではできませんでした。

以下は私が実践した一つの方法です(常に「タ」でメトロノームが鳴っています)。


@メトロノームを裏の八分音符の位置で鳴らして八分音符フレーズの練習をする。「ンタ ンタ ンタ ンタ」と聞こえるまで何年も・・・

Aこの状態で三連符フレーズを練習する 「ツツタ ツツタ ツツタ ツツタ」という感じのフレーズです。三和音シークエンスやペンタトニックで・・・

B三連符+八分音符のフレーズを練習する「ツツタ ツツタ ツタ ツタ」という感じで。



この「ツタ ツタ」の八分音符は、普通とちょっと違う八分音符になります。
表裏を「イーブン」にしようとすると、かなり遅れて途切れ気味にすると合い(クラーク的)、一方「表が長い」にすると、そんなに遅らせなくても合う(ケリー的)・・・
これが「スイングする八分音符」であると考え、この感覚を自分のものにしようと、練習を重ねました。


C二拍三連フレーズも、この「16%遅れ」を身に付ける上で役に立ちます。

二拍三連の二個目の音符の始まる位置は、第一拍のアタマから66%の位置で、ここは「スイングする八分音符」の二個目が始まる位置です。



この位置は、スイングする上で絶対にキープしなければならない、16%遅れの位置です。
二拍中たったの一か所だけですが、この位置をある意味「機械的」に割り出すことができる(唯一の)「ものさし」が、二拍三連フレーズです。
二拍三連フレーズと八分音符フレーズを交互に弾く練習も、「スイングする八分音符」を掴むのにはよい方法です。


「表(おもて)」の音符の長さで並べると、
「クラシック、ポップ等普通の八分」(50%) ≦「ジャズのスイングする八分(表)」(50〜60%)< 「二拍三連」(66%)
となります。

「ジャズのスイングする八分音符(の「表」)は、普通の八分と二拍三連の中間の長さでアタマが少し(6%〜16%)遅れている」
と表現できます。長さと位置を表しています。
(ちなみに「表」の八分が長くなる分、「裏」の八分は短くなっています。)

私が二拍三連がスイングする上で大事だということを初めて聞いたのは、
2013年に静岡の素晴らしいベーシスト、本山二郎さんが福島にいらっしゃった時です。
そのときからずっと考えていたのですが、図を書いたらようやくわかりました。本当にありがとうございます。



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